放送席から見た武藤・全日本の集大成

 昨日は両国国技館で2002年10月からの10年8ヵ月続いた武藤・全日本の最後の大会。ノアの後楽園ホールを途中で切り上げて14時前に国技館入りすると、リング上で何やら笑いながら話している諏訪魔、渕、中ノ上。諏訪魔は残り、中ノ上は去る。渕はまだ去就を明らかにしていないが、7月1日以降、この3人がリングサイドに集うことはない。そして残る木原文人リングアナと去る阿部誠リングアナが進行の打ち合わせをしていた。試合前のいつもと変わらない風景…いや、選手とスタッフの誰もが“最後の時間”を大切にしているように感じた。
 武藤の要請で02年2月にアメリカから帰国、全日本に入団して武藤政権発足後は選手としてジュニア・ヘビー級を牽引し、コーチ役として若手を育成したカズ・ハヤシは「2日前に荷物を整理しに道場に行った時には涙が出ましたね(苦笑)。今日は、この11年間の俺の集大成を見せますよ」と言っていた。そう、明日からは道は分かれるとしても、この6月30日には武藤・全日本の全員が「集大成を見せよう!」という気概に溢れていた。
 この大会はCS放送のGAORAで『全日本プロレス ALL JAPAN B-Banquetスペシャル』として7月6日(土)19時~22時30分に放映される。放送される時には事態が動いているわけだから、分裂騒動を前提にしての実況解説でなければ意味はない。だから番組冒頭では今、全日本で何が起こっているかをきちんと伝え、去就がわかっている選手については、なぜ残ることを決意したのか、去ることを決意したのかという気持ちも交えての解説となった。どちらの判断が正しいのかという角度ではなく、どうしてその決断に至ったのか、そして、それを踏まえてこの試合にはどういう意味があり、どういう気持ちで闘っているのかを伝えることを心掛けた。私もアナウンサーの鍵野威史さんも選手の気持ちがしっかりと伝わるように丁寧に喋ることを心掛けたつもりだ。
 泣いていたのは心ならずとも去ることを決断した人たちだった。前説で「ゼンニッポン、ヤーッ!」の観客の掛け声を終えた後に思わず言葉に詰まった阿部リングアナの顔を見た時にはグッとくるものがあった。彼は今後、レスラーの名前をコールすることはあっても「ゼンニッポン」を口にすることはないのだ。第1試合では去る大和ヒロシ、その大和を殴りに来た佐藤光留が泣いていた。宮本和志を交えての3WAYマッチだったが、2人の気持ちを察してか、宮本は試合にほとんど加わらず、2人にやりたいようにやらせていた。昨年夏から今年初めまで「全日本のゆとり世代を鍛え直す!」とターメリックとして上目線で参戦してブーイングを浴びていた宮本だが、彼は2000年6月の分裂騒動直後の唯一の全日本の練習生だった男。試合前に話を聞くと「今日はターメリックじゃなくて、13年前の分裂騒動の時の気持ちに戻っちゃってますね」と苦笑していた。
 シリーズ終盤で「自分は武藤さんに付いていきます」と意思表示した中ノ上は、全日本に残るジョー・ドーリングと組んで6ヵ月ぶりに復帰した太陽ケア&大森と対戦後にケアに声を掛けられると思わず涙。残ることを表明した大森は13年前の分裂騒動の時には三沢光晴に付いていった過去もあるだけに「辞めていく人たちの気持ちもわかりますよ、特に若い人が武藤さんに付いていくっていうのはね」と言っていた。
 私も鍵野さんもこうした場面を目の当たりにして何度か言葉に詰まることもあったが、メインの諏訪魔vs秋山準の三冠ヘビー級選手権は“これからの全日本”を支えていこうという諏訪魔と秋山の気迫がこもった素晴らしい一戦だった。特に秋山の厳しい姿勢は「お前は本当に全日本を背負う覚悟があるのか!?」と諏訪魔に問うているようにも感じた。そんな秋山に真っ向から打ち勝った諏訪魔はやはり武藤・全日本が生んだ“本物”だった。その諏訪魔をカズ、近藤修司、ジョー・ドーリング、中ノ上がラスト・レボリューションとして最後の最後までサポートしたのも心が救われた思いだ。
 それぞれに頑張っていれば、いつかどこかでまた会える。そんな気持ちが伝わってきた武藤・全日本の集大成だった。いつか、この全メンバーが揃った大会の解説をできる日が来ることを祈っている。

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