そこには確かに青春が!小橋引退試合

 超満員17000人の日本武道館。そこは“あの頃”を思わせる空間だった。小橋建太の引退記念試合は、彼が歩んできた時代すべてを凝縮した大会になった。
「お楽しみはこれからだ!」の決めゼリフで開会宣言したのは、開国路線によって97年4月にFMWから全日本に参戦したハヤブサ。小橋とハヤブサは同年9月6日、この日本武道館で小橋&滋賀賢太郎vsハヤブサ&新崎人生のカードで初対決し、9月28日のFMW川崎球場に小橋が出陣して小橋&マウナケア・モスマン(太陽ケア)vsハヤブサ&人生が実現している。
 第1試合では渕正信がノアの新人・熊野準に胸を貸した。小橋の新弟子時代のコーチはハル薗田さんだったが、薗田さんが87年11月に南アフリカ航空墜落事故で亡くなった後は渕がコーチ役に。そして鶴田軍vs超世代軍の時代にはジャンボ鶴田の参謀役として超世代軍の壁となった。また2000年6月の全日本プロレス分裂騒動を思えば、渕が“緑のリング”に上がったことは歴史的なことでもあるのだ。
 第2試合ではピンクのタイツに変身した平柳玄藩が、あの永源遙を彷彿とさせるツバで館内を沸かせた。これは攻撃を加えた小峠篤司のファインプレーでもある。あの光景を見て、明るく楽しかった馬場・全日本を思い出して和んだファンも少なくなかったはずだ。
 第2試合終了後は引退セレモニー。ここでは三沢亡き後の新体制を巡るゴタゴタでノアを去った百田光雄、川田利明が駆けつけたのはグッとくるものがあった。「今はリングに上がっていないから…」と花道を歩かなかったのは川田らしいが、小橋、川田、渕のスリーショットの実現は13年には考えられない光景だった。百田来場も含めてすべては小橋の人徳と言うしかない。
 第3試合では昨年末でノアを去り、現在はバーニングとして全日本でアジア・タッグ王者になった鈴木鼓太郎&青木篤志が新旧バーニング対決として本田多聞&志賀賢太郎と激突。93年5月に全日本に入門してちょうど20年になる多聞と志賀はこの大会に声をかけてもらったことを小橋に感謝していたのが印象的だった。
 そして80年代終盤の全日本を牽引した天龍同盟が一夜限りの復活。天龍源一郎と小川良成がタッグを結成して森嶋猛&井上雅央と対戦。天龍と小川の純粋なタッグは、実は89年8月19日の後楽園ホールにおけるvs鶴田&小橋以来、今回が2回目だったのだ。しかも対戦相手がかつて天龍に「平成のジャンボになれ!」と言われた森嶋と、鶴田と同じ山梨出身で若手の頃には鶴田譲りの星マークのタイツを履いていた雅央。こうしたマッチメークは小橋ならではの粋なファンサービスと言えよう。
 セミ前には永田裕志とのコンビで小橋&多聞からGHCタッグを奪取した棚橋弘至、タッグ王座奪取だけでなく小橋のGHC王座に挑戦した永田、全日本のF4時代に小橋と6人タッグで対戦した小島聡の新日本プロレス勢が登場。セミでは丸藤正道&鈴木みのるの元GHCタッグ王者が2年前のAT以来の復活となる髙山善廣&大森隆男のノーフィアーと対戦。大森がノアのリングに上がるのも実は事件。黒髪を茶髪にし、豹柄のタイツを黒タイツに変えてノーフィアー・バージョンでリングに上がった大森には小橋に対する感謝の気持ちが見て取れた。
 そしてメイン。今、小橋については多くは語れない心境なのだが、447日ぶりの復帰戦でもある引退試合で小橋健太は小橋健太を見せてくれた。試合時間は39分59秒。ひょっとしたら時間いっぱいの60分闘い続けるのではという試合だった。組んだ秋山準、佐々木健介、武藤敬司も対戦した歴代付き人の金丸義信、KENTA、潮﨑豪、マイバッハ谷口も小橋との時間を大切にしていたように感じる。今の状況からしたら、本来は成り立たないはずの付き人カルテットがちゃんと機能していたのも、そこに大きな師匠の小橋がいたからにほかならない。
 最後は覚悟のムーンサルト・プレス。そして小橋は自分の足でリングを降りた。引退発表記者会見の時の「馬場さんと三沢さんには本当に感謝しています。引退の花道をしっかり歩いて帰る、しっかり引退する。それが恩返しだと思います」の誓いを守ったのである。
「朝早く起きて、道場で練習して、そして日本武道館に来て試合をした。いつもと変わらない1日でした」と語った小橋には引退試合という実感がないようでもあった。きっと447日ぶりの復帰戦でファンのみんなを満足させなければいけないという気持ちだけだったからだろう。
 私にとって小橋建太は入門からデビューの過程を取材した初めてのレスラーだった。正確には本人が言う「何もなかった」時代から超世代軍結成までが私の取材対象だった。その後、何年かは大人の事情で全日本に取材に行かなかったが、その間に彼は立派なメインイベンターになっていた。それでも“何もなかった時代の小橋”と変わらない態度でずっと接してくれた。昨日の大会を観て、改めて同じ時代を生きたんだなと感じた。小橋が言うようにそこには青春があったと実感した。それを気付かせてくれたことに本当に感謝したい。
「ありがとう、お疲れさまでした。そしてこれからもよろしく!」。

「そこには確かに青春が!小橋引退試合」への1件のフィードバック

  1. 生涯忘れない日になりました。
    馬場さん、ハル園田、三沢は結果的に「生涯現役」となりました。
    「生涯現役」、すごく美しい言葉ですがその裏には悲しいこともあるわけで…。
    現役生活だけでなく命の淵に立たされたこともある小橋がきちんとした引退試合を行ったことが私は本当に嬉しかったです。
    志半ばで亡くなった馬場さん、三沢、そしてセミリタイヤからセレモニーだけ行って引退したジャンボ。
    そういった師匠、先輩たちが出来なかった引退試合を小橋がやってくれたわけですから。
    私は全日本の懐かしい話をしているときふと寂しくなるときがあります。
    ああ馬場さんもジャンボもハル園田も三沢も今は天国にいるんだなと…
    小橋は数々の困難を乗り越え大レスラーとしての役割を全うし、私のそうした心の中にある寂しさも払しょくしてくれたように思います。
    心から感謝したいです。
    ありがとう小橋!
    これからの人生に幸多かれ!

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