おかえりなさい!

 昨日の午後3時過ぎ、まだ客席もセットされていない後楽園ホールで天龍源一郎はすでにリングの上にいた。嵐を練習パートナーに何度も受け身を取り、それをザ・グレート・カブキが見守る。カブキの細かいアドバイスに頷く天龍。きっと36年前に大相撲から全日本に入団してきた当時もこういう光景だったのだろう。
 先日、一緒に出演したサムライTV『速報!バトル☆メン』でも、大会2日前の記者会見でも「絶好調!」を強調した天龍だが、そんなわけはない。
「メスを入れた時点で絶好調は有り得ないんだから。でも今日がなきゃ、明日も明後日もないわけだからさ、年内にケジメをつけたかったんだよ。こうやってリングに上がると、やっぱり自分自身、歯痒いよ。(一緒にメインのリングに上がる)7人に“何だよ”って思われたくなし、組む3人に必要以上に気を使わせているのがわかったら物悲しいしね。でも、とっくに気負いはないよ。心の中では、やるだけのことはやったというのがあるよ。あとは今のままの天龍源一郎を見せるだけ。小手先のテクニックじゃなくて真っ向から行く姿を見せるしかない。“ドブの中でも前のめりに…”ってやつだよ」と試合前の天龍。「今度、何かあったら車イスですよ」と言われていたなか、主治医、リハビリ医も待機しての“覚悟の復帰戦”だった。
 そして401日ぶりの実戦のリング。一歩一歩階段を踏みしめてリングに上がった天龍は1741人の超満員の観客、そして対峙する永田裕志、中西学、天山広吉、小島聡、同じコーナーの鈴木みのる、髙山善廣、森嶋猛に“今現在の精一杯”を見せつけた。少しロープに走ってその感触を確かめ、その後は水平チョップと右の拳を骨折しそうになったほどのグーパンチ。これが今の天龍にできるすべてだ。永田のミドルキックに転倒、小島のDDTに脳天を打ち、4人掛かりのストンピングを浴び、中西のブレーンチョップ、天山のダイビング・ヘッドバットにさらされた。さらに小島の逆片エビ、中西の逆エビの猛攻を食らったが「シューズの爪先に食らいついてでも立ち上がってやろうと思っている」の試合前の言葉通りに小島のローリング・エルボーをカウンターのグーパンチで迎撃して自力で窮地を乗り切った。コーナーに戻ってへたり込む天龍に鈴木みのるが「立て!」と檄。昨年の35周年の時もそうだが、鈴木は憎まれ口を叩く一方で献身的に天龍をサポートしてくれるいい男だ。天龍が永田にコブラツイストを決めると鈴木が中西、髙山が小島、森嶋が天山にコブラツイスト!
 そして試合のクライマックスは天龍が永田に放った背面のダイビング・エルボーだ。この技は自らの腰にもダメージを受ける。トップロープではなくセカンドロープからの一撃だったが、それこそ覚悟の技と言っていい。最後は永田が延髄斬りから腕固めをガッチリ決めてレフェリー・ストップの裁定が下ったが、その永田は試合後に「天龍さんみたいな人を目指して来年も頑張ります」と言っていた。
 対戦した新日本第3世代がヘンな手心を加えずに厳しく攻め、味方の3選手も過剰にアシストすることなくそれぞれの持ち味を出したからこそ、天龍は闘いの場に戻って来ることができたと思う。また、リングで練習するために道場を提供した全日本プロレス、天龍不在中に天龍プロジェクトを支えた選手、関係者…本当に多くの人たちの尽力があった。試合後、天龍は思わず愛娘でもある紋奈代表をリングに呼び込んで「お前、男前だよ!」と大観衆の前で感謝の言葉を口にしたが、本当に彼女の力は大きかった。マネジャーとして常に行動を共にして支え、一生懸命にチケットを売っていた。全身全霊で天龍を支えた。昨日の天龍の復帰戦は、紋奈さん、裏方に回っているまき代夫人…嶋田家の総力戦だった。
 昨日、練習からずっと見ていて、天龍に一番ふさわしい場所はやっぱりリングの上だと痛感した。だから試合をして、ちゃんと自分の足でリングを降りただけで私は十分だと思う。「天龍さん、おかえりなさい!」というのが素直な気持ちだ。
 しかし本人は「これから結果がついてくるように自分を励まさないと。じゃないと“もういいだろう、天龍!”って言われるからね」と言う。天龍はこれからも神棚に有り難く祀られるのではなく、リアルタイムを生きる決意を固めているのだ。

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