今、この状況の中で…

 昨日はDDT後楽園ホールからノアのディファ有明とハシゴ。まずはDDTだ。節電ということでビジョンを使った演出はなし。そこで打ち出したのは“映像ではない新たな演出方法”だった。
 大会前にビジョンを使って対戦カードを発表するのはどこの団体もやっていることだが、ビジョンを使えないために何とカード発表ごとに選手がリングインして対峙。映像ではないナマの絵は新鮮だった。DDTでは導入部として控室のやりとりをビジョンで見せて、そこから試合に突入するという手法が多いが、これもビジョンを使えないために机とイスを持ち込んで、控室のやりとりをリング上でナマで見せる演劇(?)にチャレンジ。これも大受けだ。一連の流れを見せるVTRもないから、これはラジオ・ドラマのように音声のみでやった。マイナス材料をプラスにしてしまう、楽しんでしまうというのがDDTの強みである。
 もちろん試合もよかった。HARASHIMAvsアントーニオ本多は時間的には10分足らずだったが、メリハリのある好試合だったし、男色ディーノがボブ・サップの刺客ジョナサン・グレシャムを迎え撃った試合は、ジョナサンがテクニック的にも、場の空気を読むプロレス頭的にも優れた選手だったからディーノの魅力全開となった。ジョナサンは身長160センチ程度(?)の小さなレスラーだが、実はチカラ・プロ、CZW、ROHで活躍しているデキる選手。あの大きなサップの刺客として小さな男が出現するというギャップもよかった。そしてメインのディック東郷vs飯伏幸太は36分を越える熱闘。
 さらにエンディングが素晴らしかった。リングに上がった高木三四郎は「明日から一歩を踏み出せるように一緒に歌いましょう!」と提案。これには客席から「えーっ!?」という声が起こったが、三四郎は「俺たちはプロレスラーだからプロレスしか出来ない…わけじゃない。歌も歌えるのだ。あんたたちだってデキるお客さんだろ? みんなで歌おうよ!」と観客を全員起立させて「一歩踏み出すために足踏みするぞ!」とハイテンション。このあたりの観客の心の掴み方はさすが三四郎だ。そして選手全員がチアガールのポンポンを持って集まって水前寺清子の『三百六十五歩のマーチ』を大合唱。福島で震度6強の地震にあったゴージャス松野も駆けつけて熱唱した。
 高木三四郎とDDTは“幸せな空間”“誰もが笑顔になれる世界”を提供してくれた。
 DDT終了後はノアのディファ有明へ。到着したのは第4試合終了後の休憩時間。西日本、九州をサーキットしてきたノアにとって震災後初めての首都圏興行だったが、雰囲気はいつもの通り。だが、全試合終了後に鈴木みのるが重いメッセージを叩きつけた。メインはGHC王者・杉浦貴から次期挑戦者としてラブコールを送られたみのるが高山善廣&佐野巧真のGHCタッグ王者と合体して杉浦&森嶋猛&吉江豊と激突。ゴッチ式パイルドライバーで杉浦を沈めたみのるは、大の字の杉浦に熱い言葉を発したのだ。
「俺はな、今どうしてもお前に言いたいことがあるからディファ有明まで来たんだ。お前が言った言葉を聞いて、俺は心底ガッカリしたよ。“今、プロレスで元気を与えるとか言っても、それは自己満足”ってお前は言ったよな? 確かに水や食いものは必要だよ。でも、それはみんなが一生懸命届けようとしているんだよ。東北のプロレスファンが以前“立て、杉浦!”って何度も言ってくれたんじゃないのか!? 今度はお前がプロレスで“立て!”って示す番じゃないのか!?」
 みのるの言葉に思わず客席から拍手が起きたが、みのるは「拍手なんていらねぇんだよ!」と一喝。その目には涙が浮かんでいるように見えた。
「俺はお前の発言を聞いて無性に腹が立った。こんな長ゼリフ、家で考えてきたわけじゃねぇ。どうしてもこれだけは言わなきゃいけないと思ったんだ。お前、MVPなんだろ!? お前、チャンピオンなんだろ!? どうしてなんだよ、杉浦! お前がプロレスの力を信じなくて誰がプロレスの力を信じるんだよ!? 東北にだってプロレスファンはいっぱいいるんだ。東北で苦しんでいるプロレスファン、そいつらの心を救うのは食いものじゃねぇ、水じゃねぇ、プロレスなんだ! こういう時に胸張って立ち上がるってなんで言えねぇんだ!? 俺は悲しいよ。俺はマジで言ってるんだ。…今のお前が俺とやりてぇなんて100万年早ぇんだよ。俺は強ぇ男とやりたいんだよ。今のお前みたいな弱ぇ奴にも、弱ぇ奴が巻いてるベルトにも興味なんかないんだよ」
 みのるがガッカリしたと言った杉浦の発言とは「俺は、プロレスで元気づけるとかは自己満足だと思うから言わない。生活が戻りつつある時には勇気や元気だけど、今は物資」といった一連の発言だ。杉浦は自衛隊出身。こういう事態の時に現実的に何が必要かわかっているし、自衛隊の先輩・仲間・後輩たちは被災地で活動している。そんな中でプロレスをしていることに葛藤があったことは想像に難くない。杉浦は正直な男だから、本音を口にするのだ。
「プロレスに元気づけたり、勇気づける力がないと言ったわけじゃない。今の段階ではそういう状況にないって言ったんであって。プロレスの力は信じてるし。…辛いね、辛い。タイトルマッチ以前にレスラーとして相手に否定されて。投げかけられたものを俺なりに受け止めて、消化しないと前に進めない」と杉浦。
 今、みんなが必死にもがいている。幸せな空間を提供した高木三四郎も、杉浦に厳しい言葉を投げかけた鈴木みのるも、批判された杉浦も、そしてプロレス業界全体が「今、自分たちに何が出来るのか!?」を模索して必死にもがいている――。

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