安田劇場最終章

 愛娘AYAMIさんを肩車して大歓声に応える安田忠夫。それは2001年の大晦日、ジェロム・レ・バンナから奇跡の勝利を収めた時の感動的なシーンを彷彿とさせた。あの時、安田は借金苦から立ち直った世界一の親父と称賛された。その親子愛は涙を誘った。だが、それは表面的なもので…当時、中学3年生だったAYAMIさんは安田を「ママを苦しめる人」という目で見つめ、肩車にしても「正直、最悪な気持ちでした。恥ずかしいし、素直に喜べなかった」という。しかし、昨日は違う。様々な浮き沈みの中、ボロボロになるまで戦った父親を心から愛し、誇りに思う娘の顔があった。
 いかにも安田らしい引退興行だった。平成の借金王、ナマクラと呼ばれた安田はそのキャラクターを貫く姿勢を見せつつも、素顔を垣間見せたののである。
第1試合では同じ高砂一門で大相撲の後輩・曙とシングルマッチ。安田の方が9年先輩で、曙の初土俵の時、安田は西前頭9枚目。曙が十両の時に安田は小結だったのだ。そんな“大相撲の孝乃富士”を知っている曙は「先輩、かわいがってやるから来い!」とムキになって安田に襲いかかった。強烈な張り手もお見舞いした。それは去りゆく先輩への心を込めての餞別。ボディプレスで圧殺した後には「ありがとうございました」と安田に深々と頭を下げた。
 曙戦では“いつものキャラ”を貫いた安田だったが、続く大谷晋二郎と組んでの高山善廣&鈴木みのる戦では素顔を見せた。あのレ・バンナ戦で感じるものがあったという鈴木は容赦ない攻め。試合前には「今が旬の2人のどっちかに勝って辞めたい。晋二郎がいれば、この2人のうちのどっちかに勝てるでしょう」と言っていた安田だったが、試合途中から大谷のアシストを拒否。その覚悟を感じた鈴木も大谷に「入ってくるなよ!」とクギを刺して潰しにかかった。鈴木は試合後に「辞めていく奴にかける言葉は無い」と言っていたものの、鈴木も高山も情けをかけずに徹底的に叩きのめすことで、敬意を示していたのだと思う。
 そしてボロボロになった状況でラストマッチの相手は天龍源一郎。天龍はまだ体調が戻っておらず、天龍プロジェクト興行の次回日程も未定のままだが、大相撲からプロレスに転向した後輩の引退試合の相手を買って出た。思うように体が動かないからチョップ、グーパンチの連打になってしまったが、最後にプロレスの痛みを安田に刻み込んでいるように見えた。
 1日3試合。「勝って辞めたいのが人間ですから、勝つ可能性が増えるように試合数を増やしました」とうそぶいていたものの、完全燃焼したかったというのが安田の本音のはずだ。試合後には「1試合でよかったかなと。相手の方に失礼でした」と本音を漏らしている。
 安田は思い出として合宿所生活を挙げていたが、93年6月に大相撲の元小結という肩書で新日本に入団し、妻子持ちの身でありながらも一新弟子として合宿所に入って若い人間と一緒に洗濯や掃除もしていた。94年2月にデビューした時には寝食を共にしていた永田裕志、中西学、石澤常光(ケンドー・カシン)、大谷晋二郎、高岩竜一らは思わず涙した。その後、借金やら自殺騒動やら、いろいろあったものの、レスラー仲間はそんな真摯な安田忠夫という男の素顔を知っているから最後まで力になったのだろう。
 いい加減に見えた安田の生き方は、傍目からは波乱万丈で面白おかしかったと思う。安田自身が自分の人生そのものをキャラクターにしてしまったのは凄いことだ。そして昨日はその安田劇場の最終章。新たな人生はブラジルでの相撲の指導ということだが、果たしてどうなるか? もしかしたら劇場新章の始まりかも…? 何はともあれ、安田さん、お疲れさまでした。新たな道での成功をお祈りしています。

「安田劇場最終章」への2件のフィードバック

  1. 仕事が忙しくやっと録画してたのが見ることが出来ました。第1試合は録画されてなかったですが、大谷と組んで鈴木と高山対戦したタッグは、ここまでやるかというくらいやられてましたね。でも、引退する人間に花を持たせてはいけないからこれでよいと思う。高山は、途中で温情で手加減してたように見えたが(あくまで自分の感想です)鈴木はこれでもかこれでもかとの攻撃。それに耐える安田もよかった。ぐったりしたところですかさずサンダーストームがかかりインターバルもなくこれは残酷と思いました。天龍プロジェクトの試合は見てなかったのですが、試合が始まってから天龍がこれほどコンディションが悪いとは思いませんでしたが、安田へのチョップとグーパンチは最後のはなむけとばかり渾身の力が入ってました。安田はボロボロになってましたがプロレスラーに2度目はないんだ、プロレスラーの引退試合はこうでなければと思う興業でした。
     安田選手お疲れ様でした。

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