悔しさの先にある天命

「あれが、お前の父さんが生きた道だ! あのリングで、お前の父さんはいつもいつも頑張っていたんだ!」
 大谷の言葉に橋本大地の両眼からドッと溢れ出るものがあった。それまでは気丈に振舞っていたが、もはや限界だった。
 今日は後楽園ホールでゼロワン主催の橋本真也デビュー25周年興行。「武藤さんや蝶野さんのように両国では出来ないけど、これが今の俺たちの精いっぱいです」(大谷)という心のこもった興行だった。第1試合では久々にテングカイザー、空手家の小林昭雄が登場、第2試合では三銃士の師匠とも言うべきドン荒川が武藤敬司ならぬ菊藤さんとシングルマッチ。第3試合では久々に坂田亘と若鷹ジェット信介がゼロワン・マットに登場した。休憩明けには橋本の戦友・蝶野がリング挨拶。そして橋本の長男・橋本大地が蝶野に呼び込まれ、橋本真也のテーマ曲『爆勝宣言』の作曲者・鈴木修氏の生演奏で入場。田中秀和リングアナが選手コールした。白いハチマキ、空手着で入場した大地の相手を買って出たのは元全日本キックボクシングGMで元WPKCムエタイ世界ライト級王者の“野良犬”こと小林聡。
 2分2ラウンドのエキシビションとは言え、伝説のキックボクサーに格闘技初心者の高校2年生が敵うわけがない。2度のダウンを喫しながらも最後まで戦い抜いた大地だったが、本人には悔しさだけが残ったようだ。
「何も出来なかった自分が悔しいし、父親の25周年、父親が戦っていたリングであんな試合しか出来なかったことが悔しいし、全部が悔しいです。自分が甘すぎたこと、父親が本当に凄い人なんだと感じました」と涙ながらに語った大地。重要なのは、この悔しさの先だ。
大谷は言った。「大地は今日、プロレスラーを目指すスタートラインに立てた。あいつが音を上げたらそこで終わり。でも、音を上げるくらいの気持ちで鍛えていく。大地を立派なプロレスラーにすることはゼロワンの責任だと改めて認識しました」
 今日のプレ・デビューは大谷があえて与えた試練。橋本大地は自分自身の現実を思い知らされただろうし、同時に橋本真也という偉大な父親を背負っているということも痛感しただろう。彼には常に「あの橋本真也の息子」という言葉が付いて回るのだ。それは時に大きなプレッシャーになるに違いない。でも、それが橋本大地という男の天命である。そしてプロレスラーになるということも天命だ。
 1年後か、2年後か、3年後か…いつになるかわからないが、今度は空手着ではなく、プロレスのタイツとシューズを身に付けて橋本大地がリングに上がる日を待ちたい。大地クン、頑張って!

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