七勝八敗で生きよ

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 以前にチラッとこのダイアリーで触れた天龍本『七勝八敗で生きよ』(東邦出版刊 定価1500円)の見本が送られてきた。恐らく書店に並ぶのは来週の中旬、12月5日~6日あたりになると思う。
 これまで天龍本は何冊か出ているし、私自身も天龍革命にテーマを絞った『天龍同盟十五年闘争』という本を5年前に日本スポーツMOOKとして書き下ろしている。人の歴史は変わるものではないから、当然、今まで知られている話も出てくるだろうが、酸いも甘いも噛み分けた57歳の今現在の天龍が過去・現在・未来をどう考えているのかを知るにはいいだろう。
 人間、誰でも経験と年齢を重ねれば、若い時とは物の見方や感じ方が微妙に変わってくると思う。昔からのファンにとっては、その当時の天龍とそれを振り返る今の天龍の考え方を知ることができるだろうし、今の“ハッスル大将”の天龍しか知らない新しいファンには、天龍源一郎という人間&プロレスラーを知るいい機会になるのではないか。
 この本は今年の春頃から話が持ち上がり、私も制作協力という形で関わってきたので、ぜひ御一読を。

テンコ盛りのDDT

 昨日は久々に後楽園ホールでのDDT。例によって様々な趣向で楽しませてくれた。第2試合の男色ディーノにKooが挑んだエクストリーム選手権はノー・ノーDQマッチ…つまりは反則禁止の試合。髪を掴んでも駄目、パンチも駄目、ロープ・ブレイクもすぐに離れなければ駄目、もちろんディーノの股間攻撃も駄目!反則自由として広く知られるノーDQマッチと正反対の試合形式を考えるというのはDDTならではのセンスだ。
 注目はマッスル坂井の“プロレス大賞新人賞への道・涙の5番勝負第2戦”と銘打たれた坂井と森嶋猛の一戦。前回の後楽園で関本大介と第1戦を行ない、11・18名古屋の『愛プロレス博2007』では6人タッグで鈴木みのると高山善廣にボコられて逞しくなっている(?)坂井の善戦が期待された一戦である。果たして…5番勝負ではシリアスなファイトに徹する坂井はビビリ気味。それでも森嶋相手にひ弱に見えない体格だということを改めて認識できたし、森嶋に投げっ放しのドラゴン・スープレックス、ラリアットを決める場面も。とはいえ、試合はすべてを森嶋がコントロール。今年に入っての森嶋は、本当に誰が相手でもいい試合をするようになった。あの体で巧さを身に付けたのだから来年が楽しみだ。最後はきっちりと必殺バックドロップでケリをつけたのは、森嶋ならではの坂井への礼儀だろう。
「みんな、僕に向かってくる姿をみたいと思っていたはずだから、やる気をもっと出していけばいいんじゃないですかね。体も大きいんだから。何か昔の僕みたいで、自分がもっと重いというのを自覚した方がいいと思います。独特の間を持っている選手なんで、それは勉強になりましたけど、ダメージはないです。DDTのファンはどう思ったかはわからないですけど、僕は面白かったです。こういうプロレスも僕の中では面白いですね。僕が言うのもあれですけど、すべては日々の積み重ねなんで、坂井選手には頑張ってほしいです」
 と、森嶋。ちょっと前は口下手で、思ったこと言葉で表現できなかった森嶋だが、今ではポイントを押さえてきっちりとコメントできるようになった。
「悔しいです。僕が攻めているのも、わざと攻めさせている感じだし、今、自分ができることを全部やっても余裕で受け止められました。僕は実力が足りてるとは思わないですけど、それでも森嶋さんの凄さをDDTのリングで出せられなくて、プロレスラーとして悔しいことだらけです。もっと凄い試合、ガンガンやり合える試合をやらなきゃいけないのに…。今すぐ、もう1回とは言えないですけど、そういう風になれ状況を自分で掴んで、もう一度ぶつかって、お客さん全員が満足でいる試合をやって勝てるように頑張りたいと思います。僕みたいな選手と対戦してくれてありがとうございました」
 と、一方の坂井は意気消沈。でもシリアス・モードの坂井も不思議な魅力がある。ぜひ、マッスルとシリアス系を両立できる選手になってもらいたい。
 さて、この日のDDTはテンコ盛りだ。マイケル中澤が瞑想ポーズ、ヘッドシザースの倒立抜けという禁断の西村ムーブで人造蛇人間ナガイダーを激怒させ、そのナガイダーは試合後に高木三四郎の説得によって長井満也に戻り、その長井の代わりに同じ無我ワールド・プロレスリングの後藤達俊がゴトウダーに変身するというサプライズあり。
 セミのKO-Dタッグ選手権ではプリンス・トーゴーがディック東郷となって相棒のアントーニオ本多、さらには盟友Kooを裏切って大鷲&諸橋と合体、新ヒール・ユニットのメタル・ヴァンパイアを結成。これによって今年1年、DDTを席捲したaWoは消滅した。メインのHARASHIMAにMIKAMIが挑んだKO-D無差別級選手権はラダーを間に挟んでのハードな試合に。ベルトを守ったHARASHIMAは王者にふさわしいムードを身に付けたし「それは鍛えるからだー!」の妙なテンションのマイク・アピールもすっかりファンの間で定着している。
 お笑いテイスト、新しい展開、そしてシビアなタイトルマッチ。たっぷりと堪能させてもらいました!

ファイティング・オペラ

 22日の『ハッスル・ハウス』では苦言を呈させてもらったが、昨日の『ハッスル・マニア2007』はエンターテインメント・ショーとして、細部まで丁寧だったし、完璧だったと思う。最後の坂田と妖精(小池栄子)の“愛の劇場”に観客が感動してハッピーな気分になったのだから、何も言うことはない。
 それにしてもファイティング・オペラとは深い意味のある名称。オペラは舞台でセリフよりも歌を主体にする演劇。そしてソープオペラはアメリカの昼ドラ。アメリカの昼の連続ドラマのスポンサーには石鹸会社が多かったことから昼ドラ=ソープオペラと呼ばれ、WWEもソープオペラと称される。次の日にも観ないと落ち着かない連続ドラマといったニュアンスだ。ハッスルの場合はもちろんオペラではないし、かといってソープオペラとも一線を画す新ジャンルのファイティング・オペラだと私は解釈している。
 では、昨日の大会はプロレスとして考えたらどうだったか? それについては12月10日発売の『Gスピリッツ』第4号で書いているので、ぜひそちらを読んでいただきたい。ここで書いて、内容が重複するのも嫌なので。ただ言えることは、昨日の『ハッスル・マニア2007』はイベントとしてショーとして成功だったということ。これはこれで、私個人の感覚としては良しとしている。

ガチガチ&ゴツゴツ

 昨日の後楽園ホールでのロックアップはVSアパッチ、大日本、K-DOJO連合軍という形でなかなか面白かった。第1試合では和田&宇和野のリキプロとKAZUMA&瀧澤のK-DOJOの対抗戦。若手同士の対抗戦は感情剥き出しだからいい。真正面からのゴツゴツした意地の張り合いで、大技は宇和野のSTOとバックドロップぐらいなもの。最後は宇和野が逆エビで瀧澤を仕留めたが、チョップ&ドロップキックだけで前に出る瀧澤のファイトは好感が持てた。
 意外な…と書いたら失礼だが、存在感を発揮したのは大日本のシャドウWX。佐々木貴と組んで真壁&矢野のGBHと激突し、体力負けしない重量感あるファイトを披露。インディーと呼ばれるレスラーは、どうしても体格的、体力的に新日本の選手に劣るが、シャドウWXは見劣りしない。今後、対GBHで光っていきそうだ。
 そして痛快だったのが長州、マシン、AKIRAの新日本レジェンド軍に挑んだ金村、黒田、GENTAROのアパッチ勢。アパッチにはレジェンド軍の威光は通用しない。長州に維新軍をパクるかのような太鼓の乱れ打ち、黒田の鉄柱を使った「もう一丁!」も哲ちゃんカッターも普段と変わらずに飛び出したし、金村&黒田のキス→Wエルボーも決まった。相手が誰であれ、自分たちのキャラを発揮するのがアパッチなのだ。
 メインの石井VS関本はお互いの肉体をぶつけ合う原始的な戦い。バッチーン、バッチーンと大音響のチョップ合戦、首を刈り取らんばかりのラリアット合戦、ゴッツン、ゴッツンと鈍い音が館内に響くヘッドバット合戦…誰もが納得の試合だったと思う。最後は石井の粘り勝ちという感じだったが、どこのリングでも、誰が相手でも肉体勝負をしている関本には本当に頭が下がる。
 ただ、残念だったのは、この試合後にGBHとインディー連合の大乱闘になって試合の余韻がかき消されてしまったこと。できれば、この日ばかりはきれいに終わってほしかったと思ったのは私だけではないはずだ。
 という残念な部分はあったものの、対抗心むき出しのガチガチ&ゴツゴツした大会は、最近はあまりなかっただけに新鮮だった。きっとこれこそが長州力が理想としている世界なのだろう。それは反対側に回っている金村キンタローも同じだろう。3年前、長州が新日本の現場監督に復帰した際にインディーを起用して批判を浴びたが、今年に入って真壁がブレイクしたきっかけを作ったのはアパッチのリング。来年、インディー連合との戦いが本格化することによって何が生み出されるのか、注目したいと思う。

いじられた1日

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 昨日の後楽園ホールにおける『2007世界最強タッグ決定リーグ戦』開幕戦ではGAORA中継の解説とPWF会長の馳センセーの代理として開会宣言。まずはこの開会宣言ではナゼか鈴木みのるが私にメンチを切ってきた(掲載写真)。
 これを皮切りに、昨日の私はいじられまくり。ハワイアン・ライオンとのハワイアン・コンビで出場の太陽ケアには首にレイをかけられるし(これは嬉しい)、ブッチャーにはマイクを使ってブッチャー・コールを強要されるし。ブッチャーには『Gスピリッツ』の取材の時に「次のツアーでは放送席のお前を襲ってやるよ」などと言われていた。数少ないスーツを血だらけにされたら堪らないから逆らえないのだ。
 今年を振り返ると…GAORAの放送席ではTARU水をさんざん浴び、諏訪魔には「どけ!」とイスを奪われ、サムライTVの『S-ARENA』ではタイガー・ジェット・シンに襲われ…などなど、レスラーにいじられたなあ。
 でも、46歳になった今もいじられるというのは、実は悪い気分じゃない。「もうトシだし」とか「ベテランの人だから」とか、レスラーに遠慮されるようになったら寂しいものなのだ。ハイハイ、皆さん、大丈夫だからいじってください。でも、ほどほどにね!

敢えて苦言

『ハッスル・マニア2007』まであと3日…昨日の後楽園での『ハッスル・ハウス』は選手たちの心がザワついているような気がした。スキットではセリフを間違えたり、噛んだり。その後のリカバリーのうまさはさすがだったが、『ハッスル』が練り上げられたファンタジーを基盤としている以上、スキットでのミスは許されない。ファンタジーがしっかりしていて、初めて『ハッスル』の世界は成立するのだ。
 試合ではボブ・サップとRGの試合が今ひとつ。サップはプロレスラーではないから、試合を引っ張れないし、相手が貧弱な体の芸人とあって、おっかなびっくり試合をしているという印象が強かった。結果、技も中途半端で、グチャグチャにやられるというRGの持ち味が発揮されなかったのは残念。プロレスラーとしての表現力が不足しているのは否めないところで、そうなると『マニア』ではHGの力量が試される。
 と、厳しいことを書いたが、これも期待の裏返し。どうあれ今、『ハッスル』は世間一般からも注目され始めている。失敗は許されないのだ。25日の『マニア』では、完璧なファイティング・オペラを見せてくれることを願っている。

京平さんの眼

 昨日のサムライTV『S-ARENA』には和田京平さんと出演。今から23年前のこと、ゴングが週刊化されて全日本プロレス担当記者になった私にとって、京平さんは凄く心強い存在だった。
 初めの頃は親しいレスラーもいないから、ひとりで地方に出張に行った時など、夕食に困ってしまう。まだ誰かを誘える立場でもないし、ひとりで食事をするのも侘しいし…。そんな時に「小佐野クン、一緒にメシ食う?」と声をかけてくれたのが京平さんだった。2人の時もあったし、リング屋さんと一緒の時もあった。そうやって私は全日本プロレスに徐々に馴染んでいった。7年前だったか、どこかの地方で天龍さん、京平さん、私の3人で焼肉を食べたことがある。「この3人で食事するなんて、ちょっと前を考えれば不思議だよねえ」と天龍さんが感慨深げに言ったのが記憶に残っている。
 さて、昨日の『S-AREA』のテーマは最強タッグの展望。健介&川田が大本命だが、京平さんが要注意として挙げたのが西村&渕とみのる&ブッチャー。
「西村と渕はジックリねちねちの長期戦が得意でしょ。これは他のチームには嫌なはずだよ。30分時間切れに持ち込まれたら、1点ロスするわけだし、このチームと時間切れになった翌日の公式戦がキツくなるからね。西村も渕も自分の持ち場を15分として試合をしたら、毎試合30分できるでしょ。プラス勝ち星があれば、知らないうちに得点が伸びているんじゃないの?」
「鈴木とブッチャーのチームは、チームというよりそれぞれのシングルマッチになるんじゃない? ブッチャーが相手方のひとりの選手を場外で捕まえて痛めつけていれば、リング上は鈴木と残った方の選手のシングルマッチ。鈴木にとっては理想的な展開だと思うよ」
 やはりリング上で間近に選手を見ている人だけに鋭い! 京平さんの言葉を参考に最強タッグを楽しんで下さい!

ハル薗田さん…

 ノアの今ツアーでは若手6選手による『モーリシャス杯争奪リーグ戦』が行なわれている。昨日の後楽園ホールにおける開幕戦では谷口周平と青木篤志の公式戦が行なわれた。体格とパワーに任せた谷口と、体格差をテクニックで克服しようという青木の攻防は20分時間切れ。優勝候補同士の戦いにふさわしい内容だったと思う。
 この“モーリシャス”というのは、20年前の1987年11月28日、ハル薗田さんが亡くなった場所。同日、台北発南アフリカ共和国ヨハネスブルク行の南アフリカ航空機295便が給油地点のモーリシャスの北東230キロ付近で日本人乗客47人を含む乗客乗員160人を乗せたまま墜落するという事故があったが、その犠牲者の中に薗田さんと新婦・真弓さんがいた。タイガー・ジェット・シンのリクエストで南アフリカで試合をするために向かう最中での事故だった。私の薗田さんの思い出はプロレスコラムの第84回で書いているので、よかったら読んでみてください。
 あれから20年。ノアの人たちが薗田さんの名前をこういう形でファンの人たちに思い出させてくれたのは嬉しい限り。三沢にとって薗田さんは兄貴分だったし、小川、小橋、菊地、そして田上もプロレスのイロハを薗田さんから教わったのだ。
 1997年の全日程終了後、12月16日、東京・後楽園ホールで『ハル薗田選手夫妻を偲ぶメモリアル・セレモニー』が催された。ここでは何試合かが組まれ、第1試合出場の小川良成は涙でなかなかリングに上がれなかった。それをコールする仲田龍リングアナの声は完全に涙声だった。三沢はタイガーマスクとして仲野信市とタッグを組んで冬木&川田相手に黙々とファイトした。最後の薗田さんの教え子の小橋と菊地は本デビューを前に急遽、バトルロイヤルに出場して薗田さんの遺影の前でファイトした。20年も前のことなのに、そんな光景をはっきりと憶えている。
 今回のリーグ戦の主旨は「薗田さんから当時の若手が教えられたものを、次世代を担う若者に伝えていきたい」というもの。そう、受け継ぐ者がいる限り、薗田さんの魂はリング上に永遠に生き続ける。

ノアを纏った大森隆男

 昨日のゼロワンMAX後楽園大会では大谷、大森、高岩、神風のデビュー15周年セレモニー。神風は試合がなかったものの(!?)…高岩はオープニングで新人の植田、高西、浪口相手にゴツゴツとした3人懸け、大谷は新日本で同期の永田とタッグを組んで田中&崔と激突した。
 終盤、大谷が右肩を負傷するアクシデントがあったが、それによって15年間の“諦めない心”を図らずも体現できたし、元IWGP王者の永田と火祭り優勝&天下一ジュニア優勝&AWA世界王者のゼロワンMAX最強・田中将斗の初遭遇も見応えがあった。かつては新日本に見下されたFMW出身の田中がゼロワンMAXのエースとして永田と相対したのだから痛快だ。体格的にも勝る永田に余裕が見えたが、それでも永田は「胸を張ってAWAのベルトを俺に見せつけてきた田中に誇りと勢いを感じた」と、素直にゼロワンMAXのエースを認めた。
 そして私の注目は大森。大森の相手はXとされていたが、何と出てきたのはドラゲーのストーカー市川。とにかくゼロワンMAXは実直な大森をいじる。かつては男色ディーノともやらされた。でも、そうした世界でも超真面目にファイトする大森からは不思議な魅力が出るのだ。この日も15周年記念試合だというのにスト市のマスクを被せられたり、ロープ渡りをやらされたりとヒドイ目に。それを真剣にやる大森は、やっぱりいい人だ。そして試合後にはスト市からプレゼント。「目を閉じて下さい」と言われて肩にかけられたのはノアのロゴが入ったガウンだった。
 目を開けた大森はどうするか? ちゃんと確認してから、自分で着直した。4年前の2月にノアを退団した大森。以後、大森の口からノアという言葉が出ることはなかった。ゼロワンMAXとノアが交流するようになっても、そこに大森の姿はなかった。
 大森がおちゃらけでノアのガウンを着たりしない。どうあれ、そこには15年のプロレス生活を振り返った時に、ノアというものが大森に組み込まれていたということである。それにゼロワンMAXとノアの今の関係を考えたら、いくらなんでもこれをお笑いネタにしたらNGだろう。
「ノアに在籍して充実していた時期もありました。いい思い出です」
と真面目に語った大森。いつだったか、一緒にサムライTVに出演した時には、
「小佐野さん、今も○○(三沢たちがいつも行っていた御徒町の店)に行ってますか?」
と聞かれたこともあった。
 これから先、いつの日か、大森とノアが絡む場面も生まれるかもしれない。

棚橋VS後藤に見えた光

 気がつけば、昨日の両国は8・12両国以来、2ヵ月ぶりの新日本。この間に棚橋がIWGP王者に返り咲き、メキシコから後藤が凱旋している。テレビでチェックした限りでは、10・8両国の永田VS棚橋、後藤VS天山は私好みの試合。敗れた永田、天山の意地が試合のそこかしこに見え、棚橋、後藤が押し返し…“素の闘い”が感じられたからだ。
 その10・8を経ての昨日の棚橋VS後藤。この新世代によるIWGP戦は新日本にとって賭けであり、未来への希望であり、祈りでもあっただろう。そして…そこには未来の光が見えた!
 まず驚かされたのが、後藤に対する観客の熱い声援。今、いかに新日本ファンが新しいヒーローを求めているかということだ。後藤は、そうしたファンが期待するに価する雰囲気を身に付けている。1年のメキシコ修行で体をヘビー級に改造し、面構えも変わったし、ファイトも変わった。1年でこれほどイメージが変わった選手も珍しい。骨太な雰囲気は新日本ファンが頼もしさを感じて当然である。
 一方、王者の棚橋はそんな後藤一辺倒の空気の中で王者としての巧さ、したたかさを存分に発揮した。ロープ・ブレークの際の張り手などの細かい反則で正攻法の後藤を挑発、そして低空ドロップキック、バリエーションに富んだ各種ドラゴン・スクリュー、足4の字と徹底した足攻め。観客をも掌に乗せてブーイングを楽しんでいる感じでもあった。後藤の昇天にあわやというシーンもあったが、2発目の昇天は首がために切り返し、間髪入れずに逆さ押さえ込み…このあたりの切り返しは、昨年7月にIWGP王者になってからの数々の修羅場を潜り抜けてきた男のしたたかさを感じさせられた。
 そんな棚橋が真価を発揮したのは25分過ぎ。フォール・イン・ラブを狙ったが、後藤がボム気味に潰したために首からキャンバスに突っ込んでしまった。それは9・22大田区でCIMAが頚椎捻挫を負ったのと瓜二つのシーンだった。異変を察知した海野レフェリーが試合を一時ストップさせようとしたが、後藤は攻め手を緩めない。首筋へのダイビング・エルボー、雪崩式の回天とカサにかかる。それでも棚橋は3カウントを許さない。そんな戦況に、それまで後藤一辺倒だった声援が棚橋に傾いたのだ。ちょっと嫌味なヒール・ファイトに徹していた棚橋の“素の姿”に観客の心が動いたのだろう。
 
 最後は昇天をスリング・ブレイドで切り返し、ファルコン・アロー、そして足へのハイフライ・フローからテキサス・クローバー・ホールド。切り返しの妙と、序盤からの利に適った足攻めが棚橋に勝利をもたらした。これまでの棚橋には説得力が欠けていたが、この日は理詰めのファイトによって説得力十分。そしてアクシデントが起こっても、やり遂げる心の強さも見せてくれた。
 もちろん敗れた後藤も大健闘。まだまだ棚橋と横一線とはいかないが、初のIWGP挑戦、初の両国メインにふさわしいファイトをやってくれたと思う。ここから“時の勢い”だけではない後藤洋央紀を見せていってほしい。
 さて、試合後の棚橋だが、これも立派だったと思う。首のダメージが大きく、控室の奥に運ばれて、コメントを出すのは処置後となっていたが、海野レフェリーが「とても喋れる状態ではないので」とマスコミに事情説明。「明日、改めて勝利者会見を行ないます」ということで落ち着いたのだが、その直後に棚橋は目もうつろ、足をフラつかせる状態ながらマスコミの前に出てきて、
「後藤洋央紀は強かったです…。でも、俺が新日本のチャンピオンだ。このベルトは誰にも渡さない」
 とコメント。これ以上、喋るのは無理だったが、棚橋はチャンピオンの大会最後の仕事としてマスコミへのインタビューに応えようとしたのである。
 王者としての強さとしたたかさ、誇り、自覚、責任感…今の棚橋にIWGPのベルトは凄くよく似合う。