デスマッチの絶対王者

 ロープに張り巡らされた蛍光灯。そればかりではない、リング上にも蛍光灯が散りばめられている。ロープに飛ぶことはもちろん、リング上で受け身も取れない。蛍光灯300本マッチは極限の戦いだった。
 ロックアップして膝を着くだけでリング上の蛍光灯が破裂する。安易に投げ技を食うわけにもいかない。こんなに緊迫感のある試合は久しぶりだ。そして時間が経過するにつれて、王者・佐々木貴も挑戦者・伊東竜二も、蛍光灯のザクザクの破片で敷き詰められたキャンバスに構わず体を預けるのだ。
 大日本プロレスにとって夏と冬の横浜文化体育館は年間の柱。私が大日本の横浜文体に足を運んだのは今回が初めてだったが、いかにこの団体が、デスマッチが支持されているかを実感させられた。
 王者の佐々木貴は他団体アパッチプロレス軍の人間だが、ファンは所属団体に関係なく佐々木にも伊東にも声援を送っていた。最終的に勝ったのは佐々木であってもファンはダイニッポン・コールを連呼していた。
「団体なんか関係ねえ。デスマッチを愛する奴がこのリングで輝けるんだ。伊東には大日本の意地があっただろうけど、俺だってあいつがいない間にデスマッチを守ってきた意地がある。伊東は強いよ。強かったけど、最後は意地だよ、意地。今回は俺の意地がほんのちょっとだけ上回ったんだと思う。次の挑戦者? それは俺が指名するんじゃない。ファンが選んだ人間、ファンが後押しする人間だよ。そういう相手とやりたい。試合形式は相手が望むもので構わないから。これからも体を張って、ファンの声援に応えられるように、凄い試合、凄いデスマッチをやっていきます」
 と、佐々木。佐々木にとって今回が伊東戦初勝利。昨年9・10横浜文体で伊東に敗れてデスマッチ・ヘビー級王座を失ったが、勝った伊東は負傷欠場を余儀なくされて王座返上。そのベルトを12・3横浜文体で沼澤邪鬼との王座決定戦で取り戻した佐々木は、今年に入って3・14後楽園で宮本裕向相手に「今年のベストバウト!」と呼ばれるほどの試合をして初防衛に成功したが、本人の中では「伊東に勝ってこそ真のチャンピオン」という気持ちと「この1年、大日本のデスマッチを引っ張ってきたのは俺だ。それを証明する」という2つの想いがあったろう。絶対に負けられない一戦だったのだ。
 ベルトを掲げる佐々木に客席から「絶対王者!」という声が飛んだ。まさしく今の佐々木には絶対王者にふさわしい自覚、覚悟、実力、風格が備わっている。大日本のデスマッチが、どんなに血を流してもグロや残酷ショーにならないのは、王者・佐々木貴を初めとして各選手がピュアな気持ちで戦っているからである。デスマッチは遺恨、因縁といったドロドロした感情がなくても成立するまでに成熟した。

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