嵐とTAKAを包み込んだ無我なる世界

 私はこれまで嵐の復帰問題について厳しい立場を取ってきた。昨年7月に大麻所持で逮捕され、9月13日には懲役6ヵ月執行猶予3年の判決が出ている。果たして今、嵐がリングに上がって許されるのか…。もちろん、一度つまづいたからといって、永遠に再生のチャンスが与えられないのは可哀相すぎる。でも…。極めて個人的な感情からすれば、嵐は私にとって全日本プロレスに入門してきた当時のタクちゃんのまま。本音では1日も早く立ち直ってほしいが、でも、ここでスンナリとリングに上がることをヨシとしてしまったら…という複雑な気持ちでいた。
 そんな中、昨日の後楽園ホールにおける無我で西村が嵐にチャンスを与えてくれた。第0試合という形だがリングに上げてくれたのである。試合直前、私は嵐に会った。嵐は吐きそうになるほど緊張していた。
 果たして、お客さんの反応は。無我のお客さんはちゃんと嵐を見てくれた。嵐はタックル、ラリアット、嵐落とし、ニールキックと目一杯のファイトを繰り広げ、西村はすべてを受け止めてくれた。結局は3分あまりで西村のスリーパーに屈したが、客席からは「よくやった!嵐」の声も飛んだ。
 試合後、マイクを手にした嵐は「プロレスに携わるすべての人たちとプロレス・ファンの皆さんにお詫びします。本当に申し訳ありませんでした」と客席四方に向かって土下座。
「今日、私がリングに上がることをよく思われていない方が多いと思います。これから嵐という名前を封印して、高木功として練習生のつもりで頑張ります。そしてファンでいてくれる皆さんには、嵐という名前が1日も早くコールされるように頑張ります」
 あの口ベタな嵐が、ちゃんと自分の言葉で自分の気持ちを伝えられたのにはジーンときた。もちろん、これですべてが許されたわけではない。本当に大変なのはこれからなのだ。無我の優しいお客さんと懐の深い西村には受け入れられたが、世の中、甘くない。多分、これから辛辣な野次にさらされることもあるだろう。でも、この日のみんなの気持ちを忘れずに精進してほしい。頑張れ、タクちゃん!
 さて試合だが、この日のメインの藤波とTAKAの一騎打ちは興味深かった。この一戦が決まった直後…確かノアの6・8横浜だったと思うが、TAKAは私の顔を見るとニヤッと笑ってこう言った。
「藤波さんとの試合はヘッドロックだけで20分やりますよ」
 TAKAが目指しているのは古き良き時代のアメリカン・プロレス。いたずらに見せ技や大技を使わずに観客を魅了するセオリー通りのプロレスを目指している。無我の思想と通じるものがあるのだ。
 最初の5分、藤波とTAKAはグランド・レスリングとヘッドロックの取り合いだけで魅せた。こういう攻防になると藤波のしたたかさと経験が光る。TAKAが仕掛けてきてもパッと切り替えすのである。中盤のドラゴン・スクリューの連発では左右の足に決めて、TAKAに受け身のタイミングを掴ませなかった。振り返ってみれば、大技らしい大技はTAKAのスーパーK、藤波のブレーンバスター、ドラゴン・スクリュー、足4の字、フィニッシュのドラゴン・スリーパーぐらいのものだったが、見応え十分だった。確かに大技に頼らないプロレスだった。
「藤波さんは思っていたよりも凄い人だった。切り替えしが早いし、掌に乗せてやろうと思っていたら、結局は俺が掌に乗せられていた。あの人も昔はドラゴン殺法とかいろいろな技を使っていたけど、今は最小限の技で勝負している。俺が目指しているのと一緒だよ。飛んだり跳ねたり、頭から落としたりっていうのに頼るのはごまかし。そんなことしなくたって基本技をきっちり押さえてセオリー通りに戦えばプロレスは成立するし、お客さんを満足させられるはず。それがプロの技術だと思う。今日は勉強になりました」
 とTAKA。
 昨日はいろいろな意味で無我の深さを実感させられた。

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